エディルネ:国境と線路

エディルネの現在

旧エディルネ駅

バイパス線の完成により、エディルネはトルコにおける「鉄道の孤島」の地位をようやく脱することができた。同時に、エディルネ市内には新しいルートが建設され、エディルネ駅も従来とはまったく異なる地点に移転した。オリエント・エクスプレスの時代からのエディルネ駅は、その立派な駅舎とともに使用が停止されることになった。

古い駅舎は現在、トラキア大学の施設として利用されている。前後は寸断されているものの、わずかに線路が敷設されており、蒸気機関車と客車が保存されている(もっとも、これらのオブジェは最近持ち込まれたらしいが)。

旧エディルネ駅

しかし、共和国成立から半世紀近くを経て、ようやくエディルネを国鉄のネットワークと繋いだ新路線だが、その成果は惨憺たるものであった。新路線の完成した1970年代、鉄道はすでにトルコにおける交通手段の主役ではなくなっていた。モータリゼーションだ。

イスタンブル-エディルネ間は長距離バスがおよそ4時間で結んでいたのに対し、国鉄の列車は6時間かかる。さらに、頻繁に運行される長距離バスとは比べものにならないほど本数も少ない。政策的に低く抑えられてきた運賃の安さのみが国鉄のアドバンテージであったが、長距離バスとの競争には勝てなかった。

そして1993年、エディルネの街自体を揺るがすことになる出来事が生じた。高速道路の完成である。TEM(Trans-European North-South Motorway)の一部を構成するこの高速道路の完成により、イスタンブル-エディルネの間はわずか2時間半で移動できるようになった。

これで長距離バスの圧勝が決まったのかと言えば、必ずしもそうではない。高速道路は街の外縁をバイパスするように建設されており、旅行者がエディルネに立ち寄ることは極めて少なくなくなった。辛うじてエディルネに与えられていたトルコの入口という役目も、高速道路に奪われてしまった格好だ。

隣国からの旅行者もイスタンブルに直行してしまう。目立った産業基盤もないエディルネは、市街地こそ人口を維持しているものの周辺部では過疎が進行している。2時間半のところにある近すぎるイスタンブルに、何もかも吸い取られてしまったように活気がない。